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東京高等裁判所 昭和30年(ネ)1643号 判決

控訴人 千葉薬品株式会社

被控訴人 中島製薬株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決中主文第一項を除きその余の部分を取り消す、被控訴人及び控訴人間の千葉一宮簡易裁判所昭和二十九年(ロ)第七号医薬品売掛代金残金請求督促事件について同裁判所が同年三月二十四日なした支払命令(同年五月七日仮執行宣言)を取り消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴会社代表者は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに〈立証省略〉したほか、いずれも原判決事実摘示と同一であるので、こゝにこれを引用する。

理由

控訴人及び被控訴人が医薬品の製造販売を業とする株式会社であつて、被控訴人が、代金は毎月末相殺清算し差額は現金で支払う約定の下に、昭和二十八年十一月四日から同年十二月二十五日までに代金合計金十八万千三百五十五円相当の医薬品を控訴人に売渡し、同年十月二十二日から同年十二月八日までに代金合計金六万八千三百三十五円相当の医薬品を控訴人から買受けたことは当事者間に争なく、控訴人が昭和二十八年十二月二十四日金一万二千円を支払い、更に昭和二十九年三月十一日右代金支払のため金額金三万七千百九十八円の約束手形を振出し交付したことは、被控訴人の自陳するところであるので、被控訴人の右売掛代金残額が金六万三千八百二十二円となることは明らかである。

控訴人は、右売掛代金のほか昭和二十八年七月六日から同年十二月二十五日までの間に被控訴人に医薬品を売渡しその代金残金六万三千八百二十二円ありて、昭和二十九年三月十一日被控訴人主張の売掛代金残金と相殺清算し被控訴人主張の約束手形を交付したものであると主張するので案ずるに、この点に関する原審証人岩崎邦太郎同橘田操子の各証言、当審証人小林祐次郎の証言、当審並びに原審における控訴会社代表者江沢正治の各本人尋問の結果は後記証拠に照し措信し難く、乙第一号証のみにては未だ右事実を認めるに足らず、却て、原審における証人浦野幸春の証言(第一、二回)証人草加博の証言、証人吉田武雄の証言、当審における証人浦野幸春の証言と原審における控訴会社代表者江沢正治の本人尋問の結果(第二回)に照し成立を認め得る乙第一号証とを綜合すると、控訴人主張の売掛代金残額は控訴人が昭和二十八年七月六日から同年十月二十日までの間に売渡した医薬品の残代金であり、この売買は控訴人が浦野幸春個人に依頼し同人が控訴人の納品書、領収書用紙などを預りこれを用いて控訴人の東京出張所名義で草加博その他に売却し控訴人の代表者江沢正治、使用人岩崎邦太郎らにおいてその代金を請求し支払を受けた残額であることが認められ、昭和二十九年三月十一日控訴人が前記約束手形を振出し交付するに当りては未だ清算するに至らなかつたことを認めるほかなく、他に右認定を左右するに足る証拠がない。然らば、控訴人の右主張は採用の余地なく、被控訴人の前記残代金六万三千八百二十二円の請求は認容すべきものというべきである。

而して、右請求については昭和二十九年三月二十四日支払命令が発せられて同年三月三十一日控訴人に送達され、更に同年五月七日右支払命令に仮行宣言が附せられ同月八日控訴人に送達されたところ控訴人より異議の申立があつたのであるが、かような場合においては、該事件は督促手続を離れ通常訴訟手続に移行するを以て原審は前記請求の当否につき判断すべきであるが、右の場合においては支払命令は失効しないので、被控訴人の右請求を認容する場合には異議申立を棄却し支払命令を確定せしめることも違法ではないものと解せられる。従つて、これと同趣旨の原判決は違法というに当らず、本件控訴は理由がないのでこれを棄却するほかなく、控訴費用につき民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡咲恕一 亀山脩平 脇屋寿夫)

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